「訪問しないとクロージングできない」は本当か
お客様が見積もりを取る社数は、平均約2.7社です。単純に計算すると、訪問1件が受注につながる確率は約36%(当社試算)。訪問の3件に2件は、人と車を出したうえで受注に至っていません。本記事は「訪問をやめよう」という話ではありません。限られた訪問枠をどの案件に割り当てるか、という配分の問題として訪問見積もりを組み直すための考え方をまとめます。

「訪問しないとクロージングできない」——引越し会社の営業現場で、何度も聞く言葉です。 この実感は正しいものです。ただしこの一文は、性質の異なる複数の仕事をひとまとめにしています。 分解すると、訪問という手段が本当に必要な部分と、そうでない部分が分かれます。
訪問見積もりは、3つの仕事を同時にしている
訪問見積もりで実際に行われていることは、3つに分けられます。 「荷物量を測る」「その場で売る」「お客様を安心させる」。 現場ではこの3つが同時に、区別されないまま進みます。
①測る:荷物量と搬出経路を確定させる
荷物の量と種類、搬入・搬出経路、養生の必要性を目で確認し、車両と人員を確定させる仕事です。 見積書に書く金額の根拠は、ここで決まります。トラックのサイズも作業員の人数も、この判断から逆算されます。
3つのうち、訪問という手段を物理的に要求しているのは、この①だけです。 目で見なければ量は分からない。だから訪問する。この因果が、業界の営業体制を長く規定してきました。
②売る・③安心させる:対面が有利だが、対面でなくても成立する
その場で条件を詰め、値引きの判断を下し、他社が来る前に契約を確定させる。これが②です。 担当者の人柄と会社の姿勢を見せ、「この会社に任せて大丈夫だ」と思ってもらう。これが③です。
②と③は、対面が有利であることは間違いありません。ただし、対面でなければ成立しないわけではありません。 電話の応対、返信の速さ、見積書の丁寧さでも、同じ役割を果たせます。この点は後半でデータとともに確認します。
20分の作業のために、半日の枠を確保している
訪問見積もりの所要時間は、9割以上が20分以内という調査があります[3]。 現場での作業自体は、実はそれほど長くありません。時間を食っているのは、移動と、日程調整と、待機です。
20分の作業のために、担当者の半日が消える。これが訪問見積もりのコスト構造です。 そして、その半日は受注できるかどうかに関係なく、等しく支払われています。
数字で見る、いまの訪問見積もり
お客様は平均約2.7社から見積もりを取っている
引越しを行った方100名を対象とした調査では、見積もりを取得した社数は、1社20%/2社26%/3社28%/4社14%/5社10%/6社以上2%でした[1]。 加重平均すると約2.7社です(※当社試算)。3社以上から取る方が過半数を占めます。
お客様が平均2.7社を比較して1社を選ぶのであれば、1社あたりの受注確率は 1 ÷ 2.7 で約36%です(※当社試算)。 これは相見積もり構造から導いた理論値で、実際の数字は営業力や価格戦略で上下します。 ただし、全件に訪問している限り、訪問の3件に2件は受注に至らないという構造そのものは変わりません。
| 項目 | 件数・比率 | 意味 |
|---|---|---|
| 問い合わせ | 100件 | すべてに訪問枠を確保する |
| 受注 | 約36件 | 相見積もり平均2.7社からの単純計算 |
| 受注に至らない訪問 | 約64件 | 人件費・車両費・移動時間が回収できない |
| 訪問1件あたりの受注 | 0.36件 | この数値を上げることが本記事の主題 |
※ 月100件の問い合わせを全件訪問した場合のモデル。受注確率は当社試算(1÷2.7)。
相談件数は増え続けている
国民生活センターに寄せられた引越しに関する相談は、2023年度2,128件、2024年度2,344件、2025年度2,703件と増加が続いています[2]。 一方で、総務省の統計によれば2025年の市区町村間移動者数は5,190,548人で、前年比0.3%の減少です[5]。 引越しそのものは増えていないのに、相談は増えています。
2024年度の相談内容を見ると、「見積(全般)」が24.9%で第3位に入っています[2]。 見積もりの段階で起きている行き違いが、4件に1件の相談に含まれているということです。 見積もりの精度と説明は、受注のためだけでなく、事後のトラブルを減らすためにも効きます。
「信頼は訪問がつくる」は、どこまで本当か
訪問しなくてもつくれる評価が、確かに存在する
お客様が引越し業者を選んだ理由を尋ねた調査があります[4]。上位を並べると次のとおりです。
| 順位 | 業者を選んだ理由(複数回答) | 割合 |
|---|---|---|
| 1 | 他社と比較して料金が安かった | 55.1% |
| 2 | 訪問見積もり時のスタッフの対応がよかった | 36.8% |
| 3 | 信頼できそうな引越し業者だった | 32.1% |
| 4 | 希望日に引越しができた | 26.6% |
| 5 | 電話の対応がよかった | 25.0% |
| 7 | 訪問見積りを行ってくれた | 20.6% |
| 8 | 見積りの連絡が早かった | 19.9% |
「訪問見積もり時のスタッフの対応がよかった」36.8%、「訪問見積りを行ってくれた」20.6%は、たしかに訪問に紐づく評価です。 一方で、「電話の対応がよかった」25.0%、「見積りの連絡が早かった」19.9%も上位に入っています。 訪問しなくてもつくれる評価が、訪問由来の評価と同じ水準で並んでいます。
とくに「見積りの連絡が早かった」は、非対面のほうが有利な項目です。 訪問には日程調整が必要ですが、非対面の見積もりにはそれがありません。 夜間に問い合わせがあれば、翌朝には概算を返せます。返信速度で勝つ選択肢が、ここにあります。
そもそも訪問されたくない層がいる
一人暮らしの男女500名を対象とした2026年2月の調査では、防犯面で怖いと感じる瞬間の第1位が 「訪問者が来たとき」で36.4%でした[6]。 引越し業者の訪問見積もりは、この層にとって「知らない人を家に入れる」行為そのものです。
訪問見積もりしか選択肢がない会社は、この層に対しては提案の土俵に上がる前に候補から外れています。 失注として数えられていないため、社内の受注率には影響しません。 単身者・女性のお客様の比率が想定より低い場合、原因はここにある可能性があります。
訪問をやめるのではなく、訪問先を選ぶ
ここまでの整理を運用に落とします。全件訪問型と選別型の違いは、訪問の有無ではありません。 訪問するかどうかを決める前に、荷物量という判断材料を持っているかどうかです。
選別の判断材料は、荷物量と搬出経路
訪問先を選ぶには、選ぶための情報が要ります。電話の聞き取りだけでは、荷物量の把握はお客様の記憶に依存します。 非対面でも荷物量を実測できる手段があれば、問い合わせの段階で次の判断ができます。
- 案件規模——単身か家族か、2トン車で足りるか。売上規模の大きい案件を先に押さえる
- 難度——階段作業、大型家具、特殊搬出の有無。現地確認が必要な案件を見分ける
- 確度——スキャンや情報入力に手間をかけたお客様は、検討が進んでいる可能性が高い
- お客様の希望——訪問を望まない意思表示があれば、非対面で完結させる
非対面で完結させる案件にも、精度が要る
国民生活センターは2026年2月、オンライン見積もりで契約したものの、当日に荷物がトラックに載りきらず 積み残しが発生した事例を公表しています[2]。この指摘は正当です。 ただし、原因は分けて見る必要があります。
当社の見方では、積み残しは「訪問しなかったから」ではなく「測らなかったから」起きています。 お客様の自己申告に依存した非対面見積もりと、実測に基づく非対面見積もりは、同じものではありません。 押し入れの奥、ベランダ、物置。お客様が忘れていれば、申告型の見積もりからはそのまま抜け落ちます。
選別のルールは、先に決めておく
選別は、担当者の勘に任せると機能しません。運用に落とす前に、社内で次の3点を決めてください。
- 訪問する基準——荷物量、階段作業の有無、法人案件など、訪問する条件を明文化する
- 訪問枠の上限——1日に何件まで訪問するかを決める。上限がなければ、結局は全件訪問に戻る
- 非対面案件の担当——誰が追客するか。ここが空席だと、単に取りこぼしが増える
月100件の会社で試算する
説明のためのモデル試算です。個別の会社について効果を断定するものではありません。 数字を御社の実績値に置き換えてご覧ください。
| 全件訪問型 | 選別型 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 月間問い合わせ | 100件 | 100件 | ±0 |
| 訪問件数 | 100件 | 50件 | −50件 |
| 訪問からの受注 | 36件 | 25件 | −11件 |
| 非対面からの受注 | — | 10件 | +10件 |
| 受注合計 | 36件 | 35件 | −1件 |
| 訪問1件あたりの受注 | 0.36件 | 0.70件 | 約1.9倍 |
※ すべて当社試算。上位50件の受注率50%、非対面50件の受注率20%と仮置きしています。問い合わせ件数は変わらないものとして計算しました。
受注合計は36件から35件へ、ほぼ横ばいです。ここは重要ではありません。見るべきは、 その35件を、訪問50件分の稼働で獲得しているという点です。 浮いた50件分の訪問枠は、繁忙期の対応力にも、営業人員の採用を先送りする判断にも使えます。
同時に、この試算は仮定に依存していることも書いておきます。 上位50件の受注率が36%のまま、つまり選別がまったく機能しなければ、受注は28件に落ちます(訪問18件+非対面10件)。 この設計の成否は、選別の精度がすべてです。だからこそ、選別に使う情報の質が問題になります。
UIROという選択肢
UIROは、お客様がご自身のスマートフォンで部屋をスキャンし、荷物量を実測して見積もりの一次情報をつくる、 引越し会社向けのサービスです。訪問をやめるための道具ではなく、訪問先を選ぶための道具です。
お客様は、引越し会社のサイトにある「早速見積もりする」ボタンから、その場でスキャンを始めます。 業者側からURLを送る手間はありません。LiDAR搭載モデルは不要で、カメラ付きのスマートフォンであれば動作します。 スキャン結果から荷物量が算出され、荷物リストとともに事業者の管理画面に届きます。
- 失注する訪問に、人と車を出さずに済みます。荷物量が先にわかるため、訪問するかどうかを案件の規模と難度を見て決められます
- 深夜・営業時間外でも、見積もりの一次情報が集まります。翌朝の一本目の電話を、概算を持った状態からかけられます
- 訪問されたくない層を取り込めます。非対面の選択肢があること自体が、これまで候補に入れてもらえなかった層への入り口になります
お客様側は、人を家に入れずに済み、日程調整も電話も要りません。荷物量が実測されるため、 当日の積み残しや追加請求のリスクも下がります。業者にとっても、お客様にとっても良い形です。
出典
- 見積もり取得社数の分布(n=100。1社20%/2社26%/3社28%/4社14%/5社10%/6社以上2%)。加重平均約2.7社および受注確率約36%は当社試算。
https://www.0003.co.jp/estimate/column/detail1.html - 国民生活センター「引越トラブルにご注意」(2026年2月4日公表)。オンライン見積もりでの積み残し事例、2024年度の相談内容別内訳(n=2,345。見積(全般)24.9%)。相談件数の推移(2023年度2,128件/2024年度2,344件/2025年度2,703件)は同センターの相談件数公表ページ(2026年5月31日時点)による。
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260204_1.html
https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/hikkoshi.html - 訪問見積もりの所要時間(9割以上が20分以内)。
https://hikkoshizamurai.jp/estimate/required-time/ - 引越し侍「料金だけではない!引越し業者を選ぶ理由」(複数回答)。
https://hikkoshizamurai.jp/report/press001/ - 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」。市区町村間移動者数5,190,548人(前年比0.3%減)。
https://www.stat.go.jp/data/idou/2025np/jissu/youyaku/index.html - 一人暮らしの防犯意識調査(2026年2月、一人暮らしの男女500名)。防犯面が怖い瞬間の1位「訪問者が来たとき」36.4%。
https://www.mapion.co.jp/news/release/000000335.000055654-all/ - 国土交通省「標準引越運送約款」。第3条に見積書の交付と記載事項が定められています。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk4_000033.html
※ 本記事で「当社試算」と表記した数値は、①見積もり取得社数の加重平均 約2.7社、②訪問1件あたりの受注確率 約36%(1÷2.7)、 ③モデル試算表の全数値、の3点です。いずれも公表された調査結果をもとに当社が計算したもので、特定の会社の実績・効果を示すものではありません。 また、訪問見積もりの3機能への分解、および自己申告型と実測型を区別する整理は当社の見解であり、国民生活センター・国土交通省の見解ではありません。
