引越しの相談、4件に1件は見積もりの話 ── 国民生活センター2026年発表を読む

国民生活センターに寄せられた引越しの相談は、2023年度2,128件、2024年度2,344件、2025年度2,703件と増加が続いています。2024年度の相談内容では「見積(全般)」が24.9%で第3位。公表資料は消費者に向けて書かれていますが、そこに並ぶ4件の事例は、いずれも事業者側の業務の隙間を指しています。公的資料を、事業者の業務チェックリストに翻訳します。

ホワイトペーパー『相談2,703件が示していること。』表紙
UIRO WHITE PAPER 02
相談2,703件が示していること。

A4・全11ページ/無料 本記事の内容に、相談内容別の内訳図・4事例の対応表・アドバイス5項目の業務チェックリストを加えた資料です。

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国民生活センターは2026年2月4日、引越しに関する消費者トラブルについての資料を公表しました[1]。 内容は消費者に向けたものですが、事業者が読むと、書かれていることの大半は 「どこで手当てを打てばよかったか」の一覧です。数字と事例を、事業者側の業務に置き換えて整理します。


相談は増え続けている

3年で約27%の増加

国民生活センターは、全国の消費生活センター等に寄せられた相談をPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に集約して公表しています。 引越しに関する相談件数は、2023年度2,128件、2024年度2,344件、2025年度2,703件[2]。 2023年度から2年で約27%の増加です(※当社試算)。

2,703件 2025年度の相談件数(2026年5月31日時点)
24.9% 相談内容に「見積(全般)」が含まれる割合(2024年度・n=2,345)
45.2% 最多は「補償」。2位は「クレーム処理」25.4%

一方、総務省の統計によれば、2025年の市区町村間移動者数は5,190,548人で、前年比0.3%の減少です[4]。 引越しの母数は増えていません。にもかかわらず相談は増えている。 1件あたりのトラブル発生率が上がっている可能性があります。

相談しているのは、単身・小口のお客様が中心

2026年2月公表の資料によれば、相談の契約当事者は平均年齢47.4歳、30歳代からの相談が最も多く、 女性55.0%・男性45.0%。平均契約購入金額は約18万円で、金額帯は 1万円以上10万円未満47.7%、10万円以上50万円未満44.0%と、この2つで約9割を占めます[1]。

小口案件ほど、確認が薄くなる

約18万円の平均契約金額に対して、訪問見積もりには担当者の半日分の稼働がかかります。 金額の小さい案件で訪問を厚くするほど収益が合わず、結果として電話の聞き取りだけで進める案件が生まれます。 導かれる結論は「小口にも訪問を増やす」ではなく、訪問しない案件でも情報が確定する仕組みをつくることです。

何について相談されているのか

2026年2月公表の資料は、2024年度の相談2,345件について内容別の内訳を示しています(複数回答)[1]。

順位相談内容件数割合
1補償1,060件45.2%
2クレーム処理595件25.4%
3見積(全般)584件24.9%
4約束不履行394件16.8%
5傷385件16.4%

※ 複数回答のため合計は100%を超えます。n=2,345(2024年度・2026年2月4日公表時点の集計)。

上位2項目は「起きてしまった後」の話

「補償」45.2%と「クレーム処理」25.4%は、いずれも事故や不満が発生した後の対応に関する相談です。 ここに手を入れることは、対応品質の改善にはなっても、発生件数そのものは減りません。 しかも、この2つは発生してからでないと金額も工数も読めないコストです。

「見積(全般)」と「約束不履行」は、前段で減らせる

第3位の「見積(全般)」584件と第4位の「約束不履行」394件は、性質が異なります。 金額の根拠が示されていない、聞いていた条件と違う、当日になって話が変わった—— これらは契約の前に情報が確定していれば起きない種類の相談です。 合わせると、2024年度の相談の4割強に関係しています(※当社試算)。

4つの事例が指している共通点

公表資料には4件の相談事例が掲載されています。以下は当社による要約です。 右列は、事業者から見た場合にどの業務で手当てが可能だったかを当社が整理したものです。

事例起きたこと事業者側の起点(当社整理)
事例1
2025年7月
養生をせずに搬出が行われ、廊下・階段のクロス、床、ドアに多数の傷がついた。事業者は関与を否定した。 搬出経路の事前確認と、養生要否の判断。作業前後の記録が双方に無く、責任の所在が争いになった。
事例2
2025年7月
見積り時にエアコン脱着の当日費用や高所作業の追加費用の説明がなく、当日に請求された。 見積書の内訳の不足。付帯作業の条件と金額を、契約前に確定できていなかった。
事例3
2025年8月
オンライン見積りで契約したが、当日に荷物がトラックに乗りきらず、一部が積み残された。 荷物量の把握が自己申告に依存。非対面であること自体ではなく、実測されていなかったことが原因。
事例4
2025年9月
見積り時に段ボールを置いていかれ、契約しなかったところ返送料を請求された。 契約前に提供する資材の取扱い条件が、口頭でも書面でも明示されていなかった。

共通しているのは「当日まで確定していなかった」こと

4件のうち3件(事例2・3・4)は、当日の作業品質ではなく、契約時点で条件が確定していなかったことが起点です。 残る事例1も、搬出経路の事前確認があれば養生の要否は判断できました。

引越しは、契約から実施までの間に現場を見る機会が限られる商材です。 その限られた機会が見積もりであり、そこで確定させ損ねた情報は、すべて当日に持ち越されます。 当日に持ち越された不確定要素が、追加請求と積み残しとクレームになります。

当日は、修正が効かない

標準引越運送約款は、見積運賃等の増額を「荷送人の責任による事由により見積運賃等の算出の基礎に変化が生じたとき」に限って認めています[3]。 事業者側の見積もり不足を理由に当日に増額することは、この規定に照らして認められません。 当日の追加請求には、制度上の逃げ道が用意されていないということです。

消費者向けアドバイスを、業務チェックリストに変える

公表資料の末尾には、消費者へのアドバイスが5項目挙げられています[1]。 これを事業者側の行動に置き換えると、そのまま業務チェックリストになります。

国民生活センターのアドバイス(原文の見出し)事業者側の業務に置き換えると(当社整理)
1 引越の見積りは依頼内容や自分に合った方法で依頼しましょう 見積もりの方法を複数用意する。訪問しか選べない状態は、お客様の選択を奪っている。方法ごとの精度の限界を説明できるようにしておく。
2 約款や見積書等の関係書類をしっかりと読み、疑問点は必ず事前に確認するようにしましょう 見積書の内訳を、読まれる前提で書く。標準引越運送約款第3条第2項の記載事項を満たしたうえで、付帯作業の条件と追加費用の発生条件を明記する。
3 契約締結前に段ボール等の資材の提供を受ける際はその取扱いを確認しましょう 資材の取扱いを書面化する。契約に至らなかった場合の返却・費用負担を、置いていく前に紙で示す。事例4はここで防げた。
4 傷や故障のトラブルに備えて引越前後の状況を記録しておきましょう 記録を事業者側でも残す。お客様任せにしない。搬出前の室内と経路の記録があれば、事例1のような争いを避けられる。
5 不安に思った場合や、トラブルが生じた場合はすぐに最寄りの消費生活センター等へ相談しましょう 相談される前に、社内の窓口で受け止める。問い合わせ窓口の電話番号は見積書の記載事項でもある。一次対応の担当と期限を決めておく。

注目したいのは、アドバイス1から4までが、いずれも見積もりの前後で完結する内容だという点です。 当日の作業品質に関する項目は含まれていません。トラブルを減らす作業の大半が、見積もりの工程にあります。

オンライン見積もりへの慎重論をどう受け止めるか

公表資料は、見積もりの方法について次のように述べています。

見積りは引越事業者が訪問して実際の荷物や搬入経路等を見て行うことが一般的ですが、最近ではオンラインや電話、メールなどで 消費者が荷物の量等の情報を引越事業者に申告して行う場合もあります。 国民生活センター「引越トラブルにご注意」(2026年2月4日公表)より引用[1]

この記述と、事例3(オンライン見積りでの積み残し)が併記されていることから、非対面の見積もりに対して慎重な立場が読み取れます。 この指摘は正当です。自己申告に基づく非対面見積もりは、実際に積み残しを起こしています。

ただし、非対面には2つの型がある

引用文が説明しているのは、「消費者が荷物の量等の情報を申告する」型です。 この型では、荷物量の精度はお客様の記憶と申告に依存します。押し入れの奥、ベランダ、物置。 お客様が忘れていれば、そのまま見積もりから抜け落ちます。積み残しは、この構造から生じます。

一方、お客様がスマートフォンで部屋をスキャンし、荷物量を実測する型であれば、精度の上限は計測の精度になります。 当社の見方では、公表資料が問題にしているのは非対面であることではなく、測っていないことです。 非対面のまま実測できるのであれば、指摘された弱点は成立しません。

もっとも、実測型にすればすべてが解決するわけではありません。物置や実家に預けている荷物など、 その場にないものは計測できません。搬入経路の条件、付帯作業の条件も別途の確認が要ります。 この3点は運用で押さえる必要があります。逆に言えば、荷物量という最大の不確定要素は計測で消せます。

明日から着手できる4つの手当て

ここまでの内容を、着手できる順に4つに整理します。1と2は今週中に着手できます。

  1. 見積書の内訳に、追加費用の発生条件を書く。 エアコンの脱着、高所作業、階段作業、待機。条件が変わったときにいくら増えるのかを、契約前に書いておきます。事例2への直接の手当てです
  2. 契約前に渡す資材の扱いを、紙で示す。 段ボールを置いていく際に、契約に至らなかった場合の返却方法と費用負担を1枚で渡します。事例4は、この1枚があれば相談に至っていません
  3. 搬出前の記録を、事業者側で残す。 室内と搬出経路の状態を作業前に記録します。国民生活センターは消費者に記録を勧めていますが、事業者側が記録を持っていれば、事例1のような争いを短時間で終わらせられます
  4. 荷物量の把握を、申告から実測に切り替える。 ここが最も効きます。荷物量が確定していれば、車両手配の精度が上がり、積み残しが起きません。 訪問して測るか、非対面で測るかは手段の選択であり、測らないという選択肢はありません
補償・クレーム処理のコストを、前段のコストに置き換える

相談内容の上位2項目は「補償」45.2%と「クレーム処理」25.4%です。 これらは発生後にしか支払えないコストで、金額も担当者の時間も事前に見積もれません。 見積もり工程への投資は、この予測できないコストを、予測できるコストに置き換える投資です。

UIROという選択肢

UIROは、お客様がご自身のスマートフォンで部屋をスキャンし、荷物量を実測して見積もりの一次情報をつくる、 引越し会社向けのサービスです。4つ目の手当て——申告から実測への切り替え——を、訪問を増やさずに行うための道具です。

お客様は、引越し会社のサイトにある「早速見積もりする」ボタンから、その場でスキャンを始めます。 業者側からURLを送る手間はありません。LiDAR搭載モデルは不要で、カメラ付きのスマートフォンで動作します。 スキャン結果から荷物量が算出され、荷物リストとともに事業者の管理画面に届きます。

お客様側は、人を家に入れずに済み、日程調整も電話も要りません。荷物量が実測されるため、 当日の積み残しや追加請求のリスクも下がります。業者にとっても、お客様にとっても良い形です。

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出典

  1. 国民生活センター「引越トラブルにご注意」(2026年2月4日公表)。見積もり方法に関する記述、相談事例1〜4、消費者へのアドバイス5項目、2024年度の相談内容別内訳(n=2,345。補償1,060件45.2%/クレーム処理595件25.4%/見積(全般)584件24.9%/約束不履行394件16.8%/傷385件16.4%)、契約当事者の属性(平均年齢47.4歳、女性55.0%・男性45.0%、30歳代が最多、平均契約購入金額約18万円、1万円以上10万円未満47.7%・10万円以上50万円未満44.0%)。
    https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260204_1.html
    https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20260204_1.pdf
  2. 国民生活センター「引越し」相談件数の公表ページ(2026年5月31日までのPIO-NET登録分)。2023年度2,128件/2024年度2,344件/2025年度2,703件。
    https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/hikkoshi.html
  3. 国土交通省「標準引越運送約款」。第3条(見積書の交付と記載事項)、第19条(運賃等の収受および修正)。
    https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk4_000033.html
  4. 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」。市区町村間移動者数5,190,548人(前年比0.3%減)。
    https://www.stat.go.jp/data/idou/2025np/jissu/youyaku/index.html

※ 相談件数はPIO-NETへの登録が継続するため、同じ年度でも公表時点によって件数が変わります。 本記事では、件数の推移を2026年5月31日時点の公表値(2024年度2,344件)、相談内容別の内訳を2026年2月4日公表時点の集計(2024年度 n=2,345)で記載しています。
※「当社試算」と表記した数値は、①2023年度から2025年度への増加率 約27%、②「見積(全般)」と「約束不履行」を合算した「4割強」の2点です。
※ 事例の要約、「事業者側の起点」欄、「業務に置き換えると」欄、および自己申告型と実測型を区別する整理は、いずれも当社の見解であり、国民生活センターの見解ではありません。

ホワイトペーパー『相談2,703件が示していること。』表紙
UIRO WHITE PAPER 02
相談2,703件が示していること。

本記事の内容に、次のページを加えた資料です。社内の見積もり手順の点検にそのままお使いいただけます。

・相談内容別の内訳図と、件数推移のグラフ
・4事例を事業者側の業務に翻訳した対応表
・アドバイス5項目の業務チェックリスト
・4つの手当ての優先順位表(準備・効果の範囲つき)

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