引越し需要の地図 ── 人口移動報告2025年結果から商圏を設計する
2025年に市区町村をまたいで移動した人は、全国で519万548人。前年より減っています。転入超過となった都道府県は、47のうち7都府県だけです。一方で、移動の約半分は同一都道府県内で起きています(※当社試算)。伸びる市場を探すより、近距離案件の生産性を上げるほうが確実です。

住民基本台帳人口移動報告は、毎年公表される国内移動の基本統計です。 量が多く、都道府県別・市区町村別のデータはExcelで別途配布されるため、通読される機会はほとんどありません。 本記事は、そこから引越し会社の商圏判断に効く数字だけを抜き出しました。
国内移動の全体像
市区町村をまたいだ移動は519万548人
総務省統計局が公表した2025年(令和7年)の結果は、次のとおりです[1]。
| 区分 | 移動者数 | 前年比 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 市区町村間移動者数 | 5,190,548人 | −0.3% | 国内移動の総量 |
| うち都道府県間移動者数 | 2,515,731人 | −0.3% | 県境をまたぐ移動=長距離案件 |
| うち都道府県内移動者数 | 2,674,817人 | −0.4% | 同一県内の移動=近距離案件 |
| 国外からの転入者数 | 782,165人 | +6.3% | 増加している数少ない区分 |
| 国外への転出者数 | 409,592人 | +10.2% | — |
近距離が過半を占める
都道府県内移動267万4,817人は、市区町村間移動者数519万548人の約51.5%にあたります(※当社試算)。 引越し会社の売上構成では長距離案件の存在感が大きくなりがちですが、 件数で見れば、市場の主戦場は近距離です。
近距離案件は、車両の稼働時間が短く、1日に複数件を回せます。 ただし単価は低く、1件あたりの営業コストが利益を直接圧迫します。 訪問見積もりに半日の枠を使う設計は、この領域と相性がよくありません。
増えているのは、国外との移動だけ
表で唯一二桁近い伸びを示しているのが、国外との移動です。 国外からの転入者数は782,165人で前年比6.3%増、国外への転出者数は409,592人で同10.2%増となっています[1]。
国内移動が横ばいから減少に向かうなかで、この区分だけが増えています。 来日直後の住居移動、帰国に伴う荷物の整理。いずれも既存の営業導線では拾いにくい需要ですが、母数は増え続けています。 日本語以外での対応や、電話を前提としない問い合わせの受け口が要る領域です。
住民基本台帳人口移動報告は、住民票の異動届に基づく統計です。引越し件数そのものではありません。 同一市区町村内の転居や、住民票を移さない移動は集計に含まれない場合があります。 実際の引越し件数は、ここに示される数値より多いと考えるのが自然です。 本記事の数値は、絶対量の予測ではなく地域間の相対比較と需要の向きを読むために使ってください。
転入超過は7都府県に集中している
7都府県のうち4つが東京圏
都道府県間の移動で転入超過となったのは、47都道府県のうち7都府県だけです[2]。
| 都府県 | 転入超過数 | 都府県 | 転入超過数 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 65,219人 | 千葉県 | 7,836人 |
| 神奈川県 | 28,052人 | 福岡県 | 5,136人 |
| 埼玉県 | 22,427人 | 滋賀県 | 353人 |
| 大阪府 | 15,667人 |
上位は東京都・神奈川県・埼玉県で、千葉県を含めると東京圏の1都3県がすべて転入超過です。 残る3つは大阪府、福岡県、滋賀県。 人の流入という意味での成長市場は、地理的に極めて限定されています。
ただし「転入超過=引越し件数」ではない
転入超過は、転入から転出を差し引いた差分です。 転出超過の県でも、転入と転出の両方が発生している以上、引越しの件数そのものは存在します。 転出超過が最も大きい広島県は9,921人の転出超過ですが[2]、 これは「広島県で引越しが起きていない」という意味ではありません。
事業者にとって意味があるのは、差分ではなく移動の絶対数です。 差分は、その地域で今後どちらの向きの需要が増えるかを示す指標として読むのが適切です。
転出超過エリアでは、長距離案件の比率が上がる
2025年に転出超過が大きかったのは、広島県9,921人、福島県7,197人、静岡県6,711人、 新潟県6,379人、三重県5,986人の順です[2]。
長距離案件は単価が高い一方、日程の融通が効きにくく、車両の拘束時間も長くなります。 見積もりの段階で荷物量が確定していないまま受注すると、当日の増車が利益を消します。 転出超過エリアほど、見積もりの精度が収益に直結します。
3大都市圏で起きていること
3大都市圏の動きは、方向がはっきり分かれています[2]。
| 都市圏 | 転入超過数 | 日本人移動者のみ | 継続年数 |
|---|---|---|---|
| 東京圏 | 123,534人 | 112,738人 | 30年連続の転入超過 |
| 名古屋圏 | −12,695人 | −9,561人 | 13年連続の転出超過 |
| 大阪圏 | 8,742人 | 7,503人 | 3年連続の転入超過 |
| 3大都市圏 計 | 119,581人 | 110,680人 | 前年比 −85人 |
※ 東京圏は埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県、名古屋圏は岐阜県・愛知県・三重県、大阪圏は京都府・大阪府・兵庫県・奈良県を指します(総務省の区分による)。
3大都市圏の合計は119,581人で、前年から85人の減少にとどまっています。 全体としては横ばいで、内訳だけが動いているという構図です。 営業戦略に置き換えると、次のように読めます。
- 東京圏——流入が続くため、転入側(引越し先)の需要が安定します。新生活の立ち上げに伴う付帯サービスの提案余地があります
- 名古屋圏——転出が続くため、転出側(引越し元)の需要が相対的に厚くなります。県外への長距離案件の比率が上がる可能性があります
- 大阪圏——転入超過に転じて3年目です。流入層の獲得競争が起きやすい局面です
首都圏を市区町村で見る
都道府県単位では、営業所の商圏設計には粗すぎます。市区町村別で見ると、様相が変わります。 以下は、総務省の統計をもとに1都4県(茨城・埼玉・千葉・東京・神奈川)を分析した資料からの引用です[3]。
| 順 | 転入超過数 上位10(人) | 順 | 転入超過率 上位10(%) |
|---|---|---|---|
| 1 | 東京都 足立区 6,370 | 1 | 東京都 檜原村 2.288 |
| 2 | 東京都 世田谷区 5,780 | 2 | 千葉県 千葉市中央区 1.508 |
| 3 | 東京都 大田区 5,733 | 3 | 東京都 清瀬市 1.446 |
| 4 | 東京都 練馬区 4,586 | 4 | 埼玉県 さいたま市緑区 1.333 |
| 5 | 千葉県 船橋市 4,029 | 5 | 茨城県 阿見町 1.299 |
| 6 | 東京都 杉並区 3,996 | 6 | 東京都 奥多摩町 1.091 |
| 7 | 東京都 板橋区 3,862 | 7 | 千葉県 流山市 1.081 |
| 8 | 千葉県 千葉市中央区 3,271 | 8 | 東京都 中央区 1.039 |
| 9 | 東京都 北区 3,199 | 9 | 東京都 立川市 0.994 |
| 10 | 千葉県 市川市 3,013 | 10 | 神奈川県 横浜市神奈川区 0.985 |
2つのリストは、意味が違う
左は件数の絶対量、右は人口に対する比率です。 左は「そのエリアに営業所を置けば案件数が確保できるか」を、 右は「そのエリアで今まさに人の入れ替わりが激しいか」を示します。 両方に入っているのは千葉市中央区だけです。
自社の営業所からの距離を重ねて見ると、優先順位が変わることがあります。 件数が多いエリアはすでに競合が厚く、比率が高いエリアは競合が薄いまま需要が立ち上がっている可能性があります。 自社の受注実績を市区町村別に並べて重ねてください。需要が多いのに受注が少ないエリアがあれば、そこが取りこぼしです。
市区町村別の細かいデータは、総務省がe-Statで都道府県ごとのExcelとして公表しています(表10)[4]。 自社の商圏に該当する市区町村の数字は、そちらから取得できます。
縮む市場での商圏設計
ここまでの数字を、経営判断に落とします。前提は3つです。 市場全体は増えない。需要は偏っている。移動の半分は近距離。
1 新規需要の獲得より、取りこぼしの回収
総量が増えない市場では、問い合わせを増やす施策の効きが鈍くなります。 一方、すでに来ている問い合わせの取りこぼしは、施策次第で確実に減らせます。 お客様は平均約2.7社から見積もりを取っており、1社あたりの受注確率は単純計算で約36%です(※当社試算)[5]。 ここを1ポイント上げるほうが、問い合わせを1割増やすより確実です。
2 エリアごとに、訪問の基準を変える
営業所からの距離によって、訪問1件あたりのコストは変わります。 片道40分のエリアと片道10分のエリアで、同じ訪問基準を適用する理由はありません。
| 距離帯 | 訪問の考え方 | 非対面で押さえるべきこと |
|---|---|---|
| 営業所至近 | 訪問のコストが低い。従来どおりでも成立 | 時間外の問い合わせの受け皿 |
| 中距離 | 案件規模で選別する | 荷物量・搬出経路・付帯作業の有無 |
| 遠方・県外 | 訪問は原則行わない | 荷物量の実測、写真での経路確認 |
※ 上表は当社による整理です。距離帯の区切りは各社の営業体制によって異なります。
3 需要の地図と、営業の効率は同じ問題
どこに需要があるかを知っても、そこへ営業に行くコストが見合わなければ受注にはなりません。 商圏を広げられるかどうかは、1件あたりの営業コストで決まります。 非対面で荷物量を把握できれば、訪問できない距離のエリアも商圏に含められます。
UIROという選択肢
UIROは、お客様がご自身のスマートフォンで部屋をスキャンし、荷物量を実測して見積もりの一次情報をつくる、 引越し会社向けのサービスです。訪問できる距離かどうかに関係なく、案件の中身を先に把握できます。
お客様は、引越し会社のサイトにある「早速見積もりする」ボタンから、その場でスキャンを始めます。 業者側からURLを送る手間はありません。LiDAR搭載モデルは不要で、カメラ付きのスマートフォンで動作します。 スキャン結果から荷物量が算出され、荷物リストとともに事業者の管理画面に届きます。
- 訪問できない距離のエリアを、商圏に含められます。片道1時間のエリアからの問い合わせにも、根拠のある見積もりを返せます
- 失注する訪問に、人と車を出さずに済みます。案件の規模と難度が先にわかるため、訪問枠を受注確度の高い案件に配分できます
- 時間外の問い合わせを取りこぼしません。深夜でも見積もりの一次情報が集まり、翌朝には概算を持って連絡できます
お客様側は、人を家に入れずに済み、日程調整も電話も要りません。荷物量が実測されるため、 当日の積み残しや追加請求のリスクも下がります。業者にとっても、お客様にとっても良い形です。
出典
- 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」結果の要約。市区町村間移動者数5,190,548人(前年比0.3%減)、都道府県間移動者数2,515,731人、都道府県内移動者数2,674,817人、国外からの転入者数782,165人、国外への転出者数409,592人。
https://www.stat.go.jp/data/idou/2025np/jissu/youyaku/index.html - 同上・結果の概要。転入超過となった7都府県、転出超過上位、3大都市圏の転入超過数および日本人移動者のみの数値。
https://www.stat.go.jp/data/idou/2025np/jissu/pdf/2025gaiyou.pdf - 浜銀総合研究所/横浜リサーチ「HRI研究員コラム 1都4県(茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)」(2026年5月19日)。総務省「住民基本台帳人口移動報告」に基づく市区町村別の転入超過数・転入超過率。
https://www.yokohama-ri.co.jp/html/report/pdf/column260519_endo.pdf - 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」市区町村別データ(e-Stat 表10)。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&lid=000001476215 - 見積もり取得社数の分布(n=100)。加重平均約2.7社および受注確率約36%は当社試算。
https://www.0003.co.jp/estimate/column/detail1.html
※ 本記事で「当社試算」と表記した数値は、①都道府県内移動が市区町村間移動者数に占める割合 約51.5%(2,674,817 ÷ 5,190,548)、②見積もり取得社数の加重平均 約2.7社、③訪問1件あたりの受注確率 約36%(1÷2.7)の3点です。
※ 住民基本台帳人口移動報告は住民票の異動届に基づく統計であり、実際の引越し件数とは一致しません。
※ 統計には日本人移動者のみの集計と外国人を含む集計があります。本記事は原資料の公表値をそのまま用いています。正確な区分が必要な場合は出典[1][2]の原資料をご確認ください。
※ 距離帯ごとの見積もり方法の表、および営業戦略への読み替えは当社による整理であり、総務省の見解ではありません。
