訪問見積もりの「空振り」は年間いくらの損失になっているか

訪問見積もりの所要時間は、9割以上が20分以内です。しかし、その20分のために営業担当者が拘束される時間は、往復の移動と待機を含めると1件あたり2〜3時間になります。
そして、その訪問のうち受注に至るのは約36%(※当社試算)。残りの約3分の2は、人と車を半日近く動かして1円の売上にもなりません。本記事では、この「空振り」1件の原価を分解し、自社の数字を入れれば年間損失額が出る計算式まで落とし込みます。営業会議でそのまま使える形にしました。

感覚として「訪問はコストがかかる」と分かっていても、金額で言えない限り、社内の意思決定は動きません。ここでは推測を避け、公表されている単価データを使って、1件ずつ積み上げていきます。


1. 訪問1件は「20分」ではない

実際に消えている時間を分解する

消費者向けの調査では、訪問見積もりの所要時間は9割以上が20分以内とされています。一方で、大手引越し会社が自社サイトで案内している所要時間は30〜40分、あるいは30分〜1時間です。お客様の体感と、事業者側が想定している時間には、すでに開きがあります。

そして、営業担当者にとっての「1件」は滞在時間ではありません。実務では次の要素がすべて乗ります。

工程典型的な所要時間
事前の電話・日程調整10〜15分
移動(往路)20〜40分
時間指定への待機・駐車場探し5〜15分
滞在(ヒアリング・目測・提案)20〜40分
移動(復路・次アポまでの空き)20〜60分
見積書作成・入力・報告15〜30分
合計:おおむね1.5〜3.5時間/件

ここでは中央値として1件3時間を置いて計算を進めます。自社の実態が2時間なら2時間で読み替えてください。この記事の目的は、正解の数字を渡すことではなく、計算の型を渡すことです。

訪問は日中にしか置けない

もうひとつ見落とされがちなのが、訪問の時間帯に自由度がないことです。大手の訪問見積もり受付時間は朝8時から夜7時まで。つまり訪問見積もりは、輸送業務とまったく同じ時間帯を奪い合います。

夜10時に検討しているお客様に対して、事業者側が動けるのは翌日以降です。この非対称性が、後述する機会損失の源になります。


2. 1件あたりの原価をつくる

人件費の時間単価

訪問に出るのは、多くの会社で「現場を知っている人間」です。荷物量の目測ができ、当日の段取りが読め、その場で価格を決められる人材。賃金水準としては、ドライバー職とほぼ同等かそれ以上と見るのが妥当です。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査をもとにした集計では、中小型トラック運転者の平均年収は約449万円、大型で約507万円です。ここに社会保険料の事業主負担が乗ります。健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険を合わせた事業主負担は、給与総額に対しておおむね16〜17%です。

年間労働時間は、中型で2,484時間、大型で2,544時間という水準が示されています。これで時間単価を出します。

1件3時間なら、人件費だけで約6,300円です。ここには賞与・退職金引当・教育費・営業管理部門の間接費は含めていません。実際にはもう少し高く出ます。

車両費

営業車の費用は、走らせた分と、持っているだけでかかる分に分かれます。

資源エネルギー庁の調査によれば、2026年8月31日時点のレギュラーガソリン全国平均価格は1リットル170.0円です。往復30km・燃費10km/Lなら、燃料費は3L×170円で約510円。

これに保有コストが乗ります。車両の減価償却、自動車保険、自動車税、車検・整備、駐車場代。仮に営業車1台あたり月5万円、月に稼働20日、1日3件回るとすれば、1件あたり約830円です。合わせて車両費は1件あたり約1,300円(※当社試算)。

1件の直接原価は約7,600円

人件費約6,300円+車両費約1,300円で、訪問1件の直接原価はおよそ7,600円になります。切りよく8,000円と置いて以降の計算を進めます。ここに間接部門の配賦を乗せれば1万円を超える会社も珍しくありません。


3. 年間の空振りコストを計算する

計算式

ここまでの部品を組み合わせると、次の式になります。自社の数字を入れてください。

年間の空振りコスト = 年間訪問件数 × (1 − 受注率) × 訪問1件あたり原価

訪問1件あたり原価 = 拘束時間 × 人件費時間単価 + (往復距離 ÷ 燃費 × 燃料単価) + 車両保有コストの1件按分

人件費時間単価 = 年収 × 1.165 ÷ 年間労働時間

受注率は、自社の受注件数 ÷ 訪問件数で出ます。もし社内で集計されていなければ、まずそれを取ることが最初の一歩です。参考値として、見積もり取得社数のアンケート(1社20%/2社26%/3社28%/4社14%/5社10%/6社以上2%)から平均約2.7社が導かれ、単純計算での受注確率は約36%になります(※当社試算)。

規模別の試算

訪問1件8,000円、受注率36%(失注率64%)で置いた場合の年間損失は次のとおりです。

月間訪問件数年間訪問件数失注訪問(64%)年間の空振りコスト
50件600件384件約307万円
100件1,200件768件約614万円
200件2,400件1,536件約1,229万円
400件4,800件3,072件約2,458万円

月100件の訪問という規模は、営業3〜4名の会社であれば十分に現実的な数字です。その会社で年間600万円強が、売上にならない移動と滞在に消えていることになります(※当社試算)。


4. 金額に出てこない、もっと大きな損失

機会損失① 繁忙期の輸送稼働

上の計算はあくまで原価です。実際の痛みは、その時間で別の何ができたかにあります。

3月の引越し件数は他の月の約2倍。国土交通省が時期の分散を呼びかけ続けているほど需要が集中します。そしてその時期、訪問見積もりに出ている人材の多くは、本来ならトラックに乗れる人材です。失注訪問768件×3時間=2,304時間。これは通年で見れば、フルタイム1名分の年間労働時間(2,484時間)にほぼ相当します。

配送ドライバーの有効求人倍率は2026年4月時点で2.66倍。採用市場で1人を確保するより、失注訪問を半分にするほうが、はるかに現実的です。

機会損失② 営業時間外に検討している人

訪問見積もりは朝8時から夜7時の枠でしか動きません。一方、引越しを検討する行為そのものは夜間や休日に発生します。この時間帯に問い合わせフォームへ来た見込み客は、翌営業日までのあいだに他社を検討します。

この取りこぼしは帳簿に一切載りません。しかし失注コストのうち最も大きいのは、そもそも接触できなかった案件である可能性が高い。

機会損失③ 断らざるを得なかった案件

繁忙期に見積もり対応が飽和すると、対応の順番が後ろになった案件は自然に流れます。断った顧客は、翌年も戻ってきません。1件の失注訪問は8,000円ですが、対応できずに流した顧客は、生涯価値と紹介経路の両方を失います。


5. 動かせる変数はどれか

式に戻ります。年間の空振りコストは3つの変数の掛け算でした。

受注率を上げるとは、営業の話術を鍛えることではありません。訪問する前に、その案件が受注可能かどうかを判断できる情報を持つということです。荷物量、希望日、住居条件、他社への問い合わせ状況。これらが訪問前に分かっていれば、訪問先を選べます。

仮に受注率が36%から45%に上がれば、同じ受注件数を得るのに必要な訪問は1,200件から960件に減ります。浮いた240件×8,000円で約192万円。しかも浮いた720時間は、繁忙期の輸送に回せます(※当社試算)。


UIROという選択肢

私たちが開発したUIROは、この「訪問の前に荷物量を数値で受け取る」ための仕組みです。

引越し会社の自社サイトにある「早速見積もりする」ボタンから、お客様がその場でご自身のスマートフォンで部屋をスキャンします。LiDAR搭載モデルである必要はなく、カメラ付きのスマートフォンであれば動きます。スキャンされた空間から荷物量が算出され、荷物リストとともに事業者の管理画面に届きます。

事業者にとっての意味は3つです。

  1. 失注する訪問に人と車を出さずに済む。荷物量が事前に分かっていれば、どの案件に足を運ぶかを選べます
  2. 深夜・営業時間外でも見積もりの一次情報が集まる。朝8時から夜7時という訪問の制約から、情報収集の工程だけを切り離せます
  3. 訪問されたくない層を取り込める。人を家に入れることに抵抗のあるお客様は、想像よりずっと多く存在します

誤解のないように書いておくと、これは訪問見積もりをやめる話ではありません。訪問の打率を上げる話です。決まりそうな案件に足を運ぶことの価値は変わりません。変えるべきなのは、決まるかどうか分からない段階の案件にまで同じ8,000円をかけている状態のほうです。

そしてお客様にとっては、知らない相手を部屋に上げる必要も、平日の日中に予定を空ける必要もなくなります。業者にとっても、お客様にとっても良い——訪問見積もりという工程は、数少ないそういう場所です。

この記事の計算式に自社の数字を入れて、金額が想像より大きかった場合は、一度ご相談ください。

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出典

  1. 訪問見積もりの所要時間は9割以上が20分以内
    https://hikkoshizamurai.jp/estimate/required-time/
  2. 大手引越し会社の訪問見積もり所要時間(30〜40分/30分〜1時間)および受付時間帯(朝8時〜夜7時)
    https://hikkoshi.suumo.jp/oyakudachi/8194.html
  3. 厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和7年)」をもとにしたトラック運転者の平均年収(中小型 約449万円/大型 約507万円)
    https://gojob.go.goinc.jp/useful/driver_tensyoku/1FglIWnuTFUBuef5G0q0Dc
  4. 国土交通省資料をもとにした年間労働時間(中型2,484時間/大型2,544時間、全産業2,112時間)
    https://jpn.pioneer/ja/piomatixlbs/useful/truckdriver_shortage/
  5. 社会保険料の事業主負担率(健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険の合計で給与総額の概ね16〜17%)
    https://biz.moneyforward.com/payroll/basic/97900/
  6. 資源エネルギー庁 石油製品価格調査:2026年8月31日時点のレギュラーガソリン全国平均170.0円/L
    https://www.goo-net.com/magazine/money/car-money/290395
  7. 見積もり取得社数の分布(n=100、2017年7月調査)。ここから訪問1件あたりの受注確率約36%を当社にて試算
    https://www.0003.co.jp/estimate/column/detail1.html
  8. 国土交通省による引越し時期分散の呼びかけ(3月の引越し件数は他の月の約2倍)
    https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1380283.html
  9. 配送ドライバーの有効求人倍率2.66倍(2026年4月・正社員)/全職業平均1.12倍
    https://logiquest.co.jp/regular/column/driver-jobs-ratio-logistics-strategy/

※本記事中の「人件費時間単価 約2,100円」「訪問1件あたり原価 約8,000円」「受注率36%」「規模別の年間空振りコスト」「受注率改善による削減額」は、上記の公表データをもとに当社が単純計算した試算値です。拘束時間3時間、往復30km、燃費10km/L、営業車保有コスト月5万円、稼働20日・1日3件という前提を置いています。前提が変われば結果も変わりますので、自社の実績値に置き換えてご利用ください。
※見積もり取得社数のアンケートは2017年7月の調査であり、現在の分布とは差がある可能性があります。

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