引越し会社の自社サイトが見積もり導線で損している3パターン
Baymard Instituteが世界最大手のEC60社を調査したところ、購入手続きの平均フォーム項目数は12.8個。そして、26%のユーザーが「手続きが長い・複雑だ」という理由だけで離脱していました。
引越し会社の見積もりフォームは、これより短いでしょうか。自社サイトに来ている人は、すでに社名を検索して、料金ページを読んで、その会社を候補に入れています。広告費をかけずに最も温度の高い見込み客が来ている場所で、取りこぼしが起きている——本記事では、その3つのパターンと、直す順番を整理します。
扱うのはデザインの話ではありません。ボタンの文言、入力項目の数、スマートフォンで最初に見える要素という、今日から変えられる3か所の話です。
1. 前提 ── 自社サイトに来ている人は、すでに温度が高い
そこに来るまでに、その人は3つの行動を終えている
比較サイトから流れてきた案件と違い、自社サイトの訪問者は自分で検索し、複数の候補から自社を選んでクリックし、ページを読んでいます。この時点で、その人はすでに何社かの候補を持っています。
見積もりを取る人は平均で約2.7社を比較します。つまり自社サイトに来ている人の多くは、2〜3枠しかない候補リストの1枠に、すでに自社を入れてくれている状態です。ここからの離脱は、比較サイトでの失注とは意味が違います。獲れたはずの案件です。
それでも、大半のサイトは受け皿を用意していない
ところが実際の引越し会社のサイトを見ると、この温度の高い訪問者に対して用意されているのが「お問い合わせ」ボタン1つ、という構成が非常に多い。以下の3パターンは、その中でも特に頻度が高く、かつ直すコストが低いものです。
2. パターン① CTAが「お問い合わせ」だけで、行動の重さが変わらない
「お問い合わせ」は、押した後に何が起きるか分からないボタン
ボタンを押す前に、人は必ず「押したら何が起きるか」を想像します。「お問い合わせ」というラベルは、その想像ができません。電話がかかってくるのか、営業が来るのか、何を聞かれるのか——分からないボタンは、押されずに保留されます。
CTAの文言変更は、フォーム改善のなかでも最も効果検証が容易な領域です。ある検証では、フォーム項目を減らすのではなく項目のラベルを書き換えただけで、コンバージョンが19.21%改善しています。人はフォームの長さそのものより、「何を求められているか」の理解度で判断しています。
温度の違う3人が、同じ1つのボタンに集まっている
引越しを検討している人は、少なくとも3つの段階に分かれます。
| 段階 | その人が知りたいこと | 本来必要なCTA |
|---|---|---|
| 相場を調べている | だいたいいくらか | 料金の目安を見る/簡易試算 |
| 候補を絞っている | 自分の荷物でいくらか | その場で見積もりを出す |
| ほぼ決めている | この日程で空いているか | 日程を相談する/電話 |
この3人を「お問い合わせ」という1つの穴に流し込むと、真ん中の層——最も受注に近い層——が落ちます。相場だけ知りたい人には重すぎ、ほぼ決めている人には遠回りだからです。
打ち手は、ボタンを増やすことではなく「行動の重さ」を分けること
CTAを5つも6つも並べると、今度は選べなくなります。実務的には2つで足ります。軽い側(料金の目安を見る)と、重い側(その場で見積もりを出す)。そして重い側を、視覚的にも配置的にも主役にします。
3. パターン② 入力項目が多すぎて離脱する
データで見る、項目数と離脱の関係
フォームの項目数と完了率について、公開されている調査には次のようなものがあります。
| 調査 | 内容 | 数値 |
|---|---|---|
| Baymard Institute(2019年) | EC大手60社の購入手続きの平均項目数 | 12.8個(2016年は14.88個) |
| 同上 | 「手続きが長い・複雑」だけを理由に離脱したユーザー | 26% |
| HubSpotのA/Bテスト | 項目を4個から3個に減らしたときの完了率 | 約50%改善 |
| Quicksproutの分析 | 項目を3個に絞った場合の下限コンバージョン率 | 約25% |
| Small Farm Designの検証 | 電話番号を必須から任意に変更したときの離脱率 | 39% → 4% |
Baymardの調査は世界のEC大手を対象としたもので、2019年時点の数値です。数年前のデータであり業種も異なりますが、ガイドラインとして示された適正水準は「ゲスト購入で6〜8項目」。12.8個は多すぎるという評価でした。
引越しの見積もりフォームで、氏名・電話・メール・現住所・新住所・希望日・時間帯・間取り・階数・エレベーターの有無・荷物の量・エアコンの有無・備考——ここまで並べている会社は珍しくありません。13項目です。
ただし「減らせば増える」ではない
ここは誤解されやすいところなので、はっきり書きます。項目数を減らせば必ず増えるわけではありません。実際、同じ検証者による別のテストでは、項目を減らしたことでコンバージョンが14%下がっています。
効いているのは項目数そのものではなく、「この項目を求められる理由が分かるか」です。理由が分かる項目は、多少多くても入力されます。理由が分からない項目は、1つでも手が止まります。国内のEFOツール提供事業者の分析でも、通常なら離脱率1%未満の項目に対して、特定の1項目だけが11.90%の離脱率を示したケースが報告されています。ボトルネックは「数」ではなく「どこか1か所」であることが多い。
引越しフォームの棚卸し ── 一次接触で本当に要る項目はどれか
見積もりを出すために必要な情報と、受注が決まってから聞けばいい情報を、いったん分けてください。
| 項目 | 一次接触で必要か | 判断の根拠 |
|---|---|---|
| 引越し元・先のエリア | 必要 | 距離が単価を決める |
| 希望日(おおよそ) | 必要 | 繁忙期かどうかで単価が変わる |
| 荷物量 | 必要 | これが分からないと見積もりが出ない |
| 連絡先(1つ) | 必要 | 返信手段は1つで足りる |
| 正確な番地・部屋番号 | 後で可 | 受注後の作業情報 |
| エアコン・ピアノ等の有無 | 後で可 | 確認の会話でよい |
| 時間帯の希望 | 後で可 | 枠が確定してから調整 |
そして電話番号です。前掲の検証では、電話番号を必須から任意に変えるだけで離脱率が39%から4%まで下がりました。電話番号の必須化は、フォーム改善のなかで最も費用対効果が読みやすい変更のひとつです。連絡が取れないと困る、という懸念は理解できますが、その懸念のために10人中4人近くを失っている可能性があります。
4. パターン③ スマホで開くと、電話番号しか出てこない
閲覧はスマートフォンに寄っている
総務省「令和8年版 情報通信白書」によると、2025年のインターネット利用率は85.7%で、利用機器はスマートフォンが74.3%、パソコンが45.6%。差は28.7ポイントあります。引越しの検討は移動中や帰宅後に行われることが多く、実際の閲覧比率はさらにスマートフォンに寄ります。
それにもかかわらず、スマートフォンで開いたときのファーストビューが「電話番号のバナー」で埋まっているサイトが、いまだに多く残っています。PCサイトの構成をそのまま縮小し、電話ボタンだけを追加した結果です。
電話は、いま最も摩擦の大きい連絡手段になっている
株式会社ソフツーの「電話業務実態調査」(562名、2023年8月実施)では、電話に苦手意識を感じる人は全体で57.8%、20〜30代では72.7%。一人暮らしの引越しを担う中心層が、まさにここです。
加えて、引越しの検討は夜に行われます。営業時間外に電話ボタンしか置いていないサイトは、その時間帯の見込み客を丸ごと他社に渡していることになります。
スマホのファーストビューに置くべきもの
- 電話以外の一次アクションを必ず1つ(見積もり/LINE)
- 電話は残してよい。ただし唯一の選択肢にしない
- 営業時間の表記と、時間外でも受け付けられる旨の1行
5. 直す順番 ── コストが低く、効きが速い順に
3つを同時に直そうとすると止まります。次の順で進めるのが現実的です。
| 順位 | やること | 作業量の目安 | 効く理由 |
|---|---|---|---|
| 1 | スマホのファーストビューに、電話以外のCTAを1つ置く | その日のうちに可能 | 閲覧の主戦場での取りこぼしを止める |
| 2 | CTAの文言を「お問い合わせ」から行動名に変える | その日のうちに可能 | 押した後に何が起きるかが伝わる |
| 3 | 必須項目を絞る(特に電話番号の必須解除) | 数日 | 離脱の最大要因を直接取り除く |
| 4 | 項目ごとの離脱を計測できる状態にする | 1〜2週間 | ボトルネックの1か所を特定できる |
| 5 | 一次接触を「その場で終わる」体験に変える | 導入検討が必要 | フォームの先の待ち時間をなくす |
1と2は無料で、その日のうちに終わります。まずここまでやってから、5を検討してください。
4番目の「計測」を飛ばさない
国内で6,000件以上のフォーム改善を手がけたEFOツール事業者の公開実績では、来場予約フォームのコンバージョン率が24.8%から48.4%へ、BtoBの資料請求が7.2%から12.9%へ改善した例が示されています。こうした改善が成立するのは、どの項目で人が止まっているかを見てから直しているからです。当て推量で項目を消す作業は、前述の「減らして14%下がった」ケースを再現しかねません。
UIROという選択肢
優先順位の5番目、「一次接触をその場で終わる体験に変える」のために私たちが開発したのが、UIROです。
引越し会社の自社サイトに「早速見積もりする」ボタンを1つ置きます。お客様がそれを押すと、その場で自分のスマートフォンのカメラで部屋をスキャンします。LiDAR搭載モデルである必要はありません。スキャンされた空間から荷物量が算出され、荷物リストとともに事業者の管理画面に届きます。
本記事で挙げた3パターンに、そのまま対応します。
- CTAが行動名になる。「お問い合わせ」ではなく「早速見積もりする」なので、押した後に何が起きるかが分かります
- 荷物量を文字で入力させなくて済む。フォームで最も答えにくい項目が、スキャンに置き換わります
- スマホが主戦場になる。スマートフォンで完結する体験なので、電話ボタンに頼る必要がありません
事業者側の意味は3つです。失注する訪問に人と車を出さずに済むこと。深夜・営業時間外でも見積もりの一次情報が集まること。そして、訪問されたくない層を取り込めること。お客様の側では、人を家に入れる必要も、日程調整も、電話も要りません。業者にとっても、お客様にとっても良い設計になっています。
これは訪問見積もりをやめる製品ではなく、訪問の打率を上げる製品です。決まりそうな案件に足を運ぶ価値は変わりません。
あわせて読みたい
自社サイト以外の導線として、LINE公式アカウントのリッチメニュー設計をまとめています。
LINE公式アカウントのリッチメニューに何を置くべきか ── 引越し会社の設計例
出典
- Baymard Institute「Checkout Optimization: From 16 Form Fields to 8 Fields」世界最大手EC60社・7,900件超のチェックアウトUX評価。平均フォーム項目数12.8個(2016年は14.88個)/26%のユーザーが「手続きが長い・複雑」を理由に離脱/ゲスト購入は6〜8項目が目安
https://baymard.com/blog/checkout-optimization-from-16-fields-to-8 - WPForms「15 Form Conversion Best Practices (Backed by Research)」HubSpotのA/Bテスト(項目4→3で完了率約50%改善)/Quicksproutの分析(3項目で最低25%のコンバージョン率)/Small Farm Designの検証(電話番号を必須から任意にして離脱率39%→4%)
https://wpforms.com/research-based-tips-to-improve-contact-form-conversions/ - Venture Harbour「5 Studies on How Form Length Impacts Conversion Rates」項目を減らしてコンバージョンが14%低下した事例/ラベル変更で19.21%改善した事例
https://ventureharbour.com/how-form-length-impacts-conversion-rates/ - Gyro-n EFO「入力フォームの構成・デザインが、意外な途中離脱を招く」特定1項目の離脱率11.90%(通常は1%未満)/データ取得期間3か月
https://www.gyro-n.com/column/efo-form-analytics-01/ - Gyro-n EFO「EFOとは」国内6,000フォーム超の改善実績。来場予約24.8%→48.4%/BtoB資料請求7.2%→12.9%ほか業種別実績
https://www.gyro-n.com/efo/about_efo/ - 総務省「令和8年版 情報通信白書」2025年のインターネット利用率85.7%、利用機器はスマートフォン74.3%・パソコン45.6%(差28.7ポイント)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd21b120.html - 株式会社ソフツー「電話業務実態調査」(562名、2023年8月4〜7日実施)電話に苦手意識を感じる人 全体57.8%/20〜30代72.7%
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000063.000028096.html - 見積もり取得社数の分布(n=100)から平均約2.7社を当社にて算出
https://www.0003.co.jp/estimate/column/detail1.html
※フォーム項目数に関する調査は海外ECを対象としたものが中心であり、引越し業の見積もりフォームとは業種・購買文脈が異なります。数値はそのまま自社に当てはまるものではなく、優先順位を判断するための参考値としてご覧ください。「平均約2.7社」は公開アンケートの取得社数分布から当社が算出した値です。
